東京オリンピック「エンブレム」選考についての私見

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▲弊社エンブレム案 オリンピック(左)、パラリンピック(右)

●デザインタイトル:
感動の大河、未来への道を照らす~躍道

●デザインコンセプト:
陽光に輝く汗が、国を越えた感動の大河となり、やがて月の光に進む道が照らされる。スポーツの意義を、「日本らしく」を基本に、「先人を敬い」「日本の機知と美意識」で、「親しみやすく」表現。過去2回の構図を継承して、人類のエナジーの源泉である太陽に、また太陽以上に憧憬される月に富士山を配し、大河には水文様で、月には雲文様で平仮名の<とうきょう>を隠柄的に描いて構成。子供たちでも、塗絵などで描けるようにしました。


■東京オリンピック「エンブレム」選考についての私見

今回の選考については3つの間違いがあると考えます。一つ目の間違いは新国立競技場と同じく募集する側の責務であり、また後々の選考の基準ともなるであろう、「エンブレムとは何か」というコンセプトを、未だに表明されていないことです。この基本的な位置づけが不透明であるがゆえに、2つ目の間違いである、「スポーツの祭典だから力強いものがいい」というミスリーにつながったと言えます。
委員会の募集要項にはキーワードとして、「スポーツの力」「日本らしさ、東京らしさ」「世界の平和」「自己ベスト・一生懸命」「一体感・インクルージョン」「革新性と未来志向」「復興・立ち上がる力」の7点が記されています。精査していくと、オリンピックとは、「五つの大陸からスポーツに秀でた選手によって、人類の限界を競う平和の祭典」で、パラリンピックは「障害者の方との連携と多様性を認め合う」というものです。私観なので書かせていただくと、「自己ベスト・一生懸命」はオリンピック、パラリンピックの精神に内包されており、「日本らしさ、東京らしさ」は表現面。「復興・立ち上がる力」は日本の個別的な問題。つまり「スポーツの力」「世界の平和」「一体感・インクルージョン」「革新性と未来志向」の4点が、基本となるコンセプトをより深化させ、表現意図の着目点となる思考因子といえます。最初にコンセプチャルな部分さえ明確にしておけば、“力強い”というのは、因子のワンオブゼムであり、かつ優先順位もかなり低いことがよくわかります。

3つ目の間違いは、最終選考の際に委員長が言われた「美しいもの、日本らしいもの、ちょっと変わったものを選びました」との言からの推測です。表現面を落としどころにして、それをカテゴリーのごとく混同して選ばれている。私的には横軸に<具現>と<抽象>。縦軸に<伝統>と<モダン>というようにマトリックスを組めば、4つの領域ができき、その4領域がカテゴリーで、端的に言えば、たとえば<具現>で<モダン>な領域に、「美しいもの、日本らしいもの、ちょっと変わったもの」などがあるということです

そもそもコンセプトが不明確で進行がミスリード。その結果、デザインは論理だと思うのですが、最終審査は好き嫌いの多数決で決めざるをえない。つまり当初から合議制で決めるので委員会、委員個人には責任がないということで進行してきたという感じがします。




■私の考え方

私どももエンブレムに応募していたので、なかなか書けませんでしたが、見事に落選したので書かせていただくと、エンブレムは、国立競技場が完成していない今、東京オリンピックとして世界に初めて披露するものです。それ故にエンブレムには、日本がどのような想いでオリンピックを開催するのか、その想いこそがコンセプトだと考えます。つまり開催の意義、世界にいかに貢献できるかが問われるべき点で、前述した「スポーツの祭典だから力強いもの」というのが間違いというのは、ここにあります。

私たちが着目したのは、「スポーツの力」です。先のラグビーワールドカップで最も感動したのは?と、日本の方にお聞きすると、多くが史上最大の番狂わせで、南アフリカに勝った日本を挙げられると思います。しかし少しラグビーをかじった私は、準決勝を前に敗退したスコットランドだと思っています。残り3分での誤審。執拗な抗議をせずに潔くグランドを去ったスコットランドに、ラグビーの精神が、スポーツとは何かが象徴されています。

では世界の人々がスポーツに魅了され、感動するのはなぜでしょうか。それは、スポーツは国境を越えて、<1ルール1ワールド>だからです。国際法を遵守しない国があるなか、スポーツこそが人類の未来への「道」を示しています。

スポーツの力、すなわち感動を日本らしく表現するうえでモチーフにしたのは、過去2回の東京でのオリンピックのエンブレムです。幻となった1940年は富士山、1964年は日の丸、太陽です。この歴史を継承するのが、伝統だと考えました。これに尾形光琳の水文様や先人が作り上げた雲型文様で、世界に冠たる日本であるべく、凛とした日本であるべく、デザイン的にはシンプルで安定感のあるものとしました。

なお遊び心ですが、富士山の積雪のギザギザは、NIPPONになっています。



 

■背景にあるのはなんでしょうか?

これも私観ですが、TVに代表される肩書きある知識人への依存と、肩書がある人が決めたから正論だとして、押し付け、逃げ切る風潮が昨今は強いといえます。それと自社の主張ばかりで、洞察力をなくしたマスコミ、わけてもTV、新聞媒体のジャーナリストと称される方々のレベル化の低さが遠因にあると思います。「ふるさと納税」「わからなかったら反対と書けと煽った大阪都構想」「TVで国民すべてが納得する談話と言った、新聞社のコメンテーターがいるのに、新聞一面で国民すべてが納得する談話を載せない新聞社」等、おかしなことが氾濫しているのに、問題意識がなく、軌道修正の役目が果たせていない。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。私の書いたのは、すべて落選した負け犬の遠吠えですが、この国の一助になればの想いは変わりません。

最後にお世話になったこの国に一言、「日本、決っして死ぬな!」「永久に、生きろ!」



株式会社BRAT/日本百選 堀井将人